モバ協について

日本モバイル建築協会が目指すもの

東日本大震災では、約4万9千戸の仮設住宅が建設されました。すべての応急仮設住宅ができるまでにかかったのは8ケ月。それまでの間、被災者は劣悪な避難所での生活を強いられました。非常に多くの方が身体的・精神的に疲弊し、間接的な被害を拡大してしまいました。
今後起こると予測されている南海トラフ地震では、既存の民間賃貸住宅の借り上げをフルに活用しても、約84万戸の応急仮設住宅が不足すると推定されています。この84万戸を発災後にプレハブで作り始めるとすると、東日本大震災の時以上に時間がかかることは明白です。それを解決するために、あらかじめ全国で作っておいた住宅を、発災後、瞬時に被災地に送り込むことができないかと考えました。私たちはこれを「モバイル建築」と呼んでいます。


モバイル建築は、完成した建築物を解体せずに容易に基礎から分離して、ユニット単位でクレーン等で吊り下げ、トラックに積載輸送して迅速に移築することを繰り返すことができる構造を持つ建築物の総称です。そして、これらのユニットを、普段は各地で多様な用途に活用しながら災害に備えるのが「社会的備蓄」です。
社会的備蓄は一般的に言われる公的な防災備蓄とは違います。たとえば平常時は自治体の公園やキャンプ場等で宿泊施設等として利用して、災害がおきたときに、災害救助法に基づいて被災地に貸し出すという仕組みです。
応急住宅の種類の中で災害時に民間の賃貸住宅を借り上げて仮設住宅として被災者に供する仕組みは「みなし仮設住宅」と呼ばれています。モバイル建築は、もともと本設の恒久住宅や非住宅施設として開発されたユニットですので、仮設住宅として利用する場合も一般の住宅と同等以上の安全性と居住性能、環境性能を有しています。恒久住宅を被災地に移動して仮設住宅として使うわけですから、つまり「動く『みなし仮設住宅』」なのです。


国難級の大規模災害では社会的備蓄だけでは足りませんので、発災後に全国の協力工場がモバイル建築をライセンス生産し被災地に動くみなし応急住宅として迅速に届けることができます。
さらに、恒久住宅と同等の安全性と性能を有するモバイル建築をはじめから本設の災害公営住宅として供給することもできますので、被災者は、仮設住宅での生活をスキップして避難所から直接本設の恒久住宅に入居し早期に安心した暮らしを取り戻せます。これがモバイル建築の大きなメリットです。


さて、各地で社会的備蓄をしているモバイル建築をどのように「普段使い」するか。地方創生、またウィズコロナの時代のテレワークやリモートオフィス、ワーケーション、さらには地域の子ども食堂や学習支援、ケアラー(家族介護者)の支援施設など、様々な用途が考えられます。この平常時の利用を進めていくにあたっては、自治体との連携、官民の連携が不可欠ですし、企業の方々にも様々な知恵と力をお借りししたいと思います。


モバイル建築の社会的備蓄を先導していただいている茨城県境町では、企業版ふるさと納税を活用した取り組みを進めています。ホッケー場のクラブハウスや、地方創生の拠点整備交付金によるホテルをモバイル建築で建設。これら施設を連携させて活用することで関係交流人口を増やして、町の活性化に貢献しながら被災地を支援するための社会的備蓄に協力いただいています。さらに、普段は学童クラブとして使っているモバイル建築を災害時はグループホーム型の福祉仮設住宅に転用する、移住体験住宅を災害時には「仮設スキップ」の本設の公営住宅として移設するなど、新しい形の備蓄も進めています。太陽光パネルや蓄電池を搭載したモバイル建築のオフグリッド化にも取り組みます。


このモバイル建築は、木造の在来工法、CLT工法など、様々なタイプのユニットがあります。協会はそれぞれのメーカーの技術や特徴を生かしつつ、安全性や居住性、環境性能の向上のための研究開発や共通基盤の規格化、認証事業などに取り組みます。モバイル建築のオープンなプラットフォームとして、限られたメーカーの製品に限定せずに、建築関係・工務店はもちろん他業種からの新規参入やライセンス生産等のマッチングにより、国難級の災害に備え供給能力の向上に努めます。また、災害時に備え全国の工務店が様々なメーカーのモバイル建築を被災地に移設するための技術研修など人材養成にも取り組みます。


モバイル建築はユニット化、スケルトンインフィル化を前提に設計されていますので、多連結・多層化が可能です。また、普段は非住宅でも災害時に住宅仕様に簡単にコンバージョンができる工夫などハウスビルダーだけではなく住宅設備や建材メーカーとの協力・連携も不可欠となります。


実際に災害が起こると、各地で社会的備蓄をしているモバイル建築を被災地の自治体に届けるために斡旋・調整する役割が必要になります。それを担うのが日本モバイル建築協会です。

そのため協会では斡旋・調整を効率的に行い事ができる情報システムの開発に着手しました。このシステムは自治体の災害対応システムとの相互運用を目指し、応急住宅のあっせん要請や、発注業務、輸送手配、仮設用地での設置工事等の業務を遠隔から支援します。


自治体や、建設や住宅関係の企業の力だけでは、モバイル建築の社会的備蓄は実現しません。金融機関やリース会社や損害保険、レンタル事業、土地の有効活用をするデベロッパーなど、ハード面・ソフト面ともに、多様な分野のビジネスの知恵が求められます。
そこで、自治体はじめ、様々な分野の企業に会員になっていただき、社会的備蓄を普及するためのビジネスモデルやソーシャルモデルに取り組みます。
協会では社会的備蓄の効率的な運営を支える情報システムとして、コロナ禍の新たなワークライフバランスを支えるワーケーションや長期滞在型のテレワーク施設の運営管理システムの開発に着手しました。このシステムは、予約から決済、部屋割り、電子ロック、セルフチェックインなどをワンストップで管理できるシステムで本年12月に会員自治体や指定管理団体の利用を開始する予定です。


モバイル建築を利用した応急住宅・復興住宅の社会的備蓄を推進し、官民協働・総力戦で、国難級の災害に、本気で備えましょう。そのために、ぜひ皆さんのお力とお知恵をお貸しください。
当協会へのご参加・お問い合わせをお待ちしています。

2021年7月

一般社団法人日本モバイル建築協会
代表理事 長坂俊成