法人設立のご挨拶

一般社団法人日本モバイル建築協会 設立のご挨拶

国難級の巨大災害に備える「モバイル建築」の研究開発と
官民協働による応急住宅の社会的備蓄の推進

設立主旨

 南海トラフ大地震や首都直下型大地震など国難級の巨大災害の切迫性が高まりつつあります。国は、民間の賃貸住宅を借り上げる応急住宅(借り上げ型応急住宅。通称、みなし仮設住宅)を利用しても、南海トラフ地震では約84万戸、首都直下型地震では9万戸の応急仮設住宅を建設する必要があると推計しています。東日本大震災では、被災後に現地で施工するプレハブ式や木造式の応急仮設住宅は建設に8か月もかかりました。応急住宅の供給の遅れは、劣悪な避難所生活を長期化させ、災害関連死や健康被害など間接被害の拡大を引き起こします。間接被害の軽減と早期の生活再建、地域の復興のためには、応急住宅の供給方式を抜本的に直す必要があります。

 2018年西日本豪雨の被災地(岡山県倉敷市)では、移動式木造住宅が災害救助法上の応急仮設住宅としてはじめて利用されました。展示場等の移動式木造住宅をトラックで迅速に輸送し被災地に供給されました。移動可能な本設の恒久住宅や各種施設(以下、※「モバイル建築」とよぶ。)を応急仮設住宅として利用する供給方式の有効性が確認されました。

 プレハブや木造の「建設型仮設住宅」や既存の賃貸住宅の空き室を利用する「借り上げ型応急住宅(みなし仮設住宅)」に加えモバイル建築を利用した応急住宅(以下、「モバイル型応急住宅」という。)は第3の応急住宅としてその普及が期待されています。モバイル型応急住宅は本設の恒久住宅を被災地に移設し仮設住宅として利用するため「動くみなし仮設住宅」とも呼ばれます。

 不確実性をはらむ大規模災害リスクを低減するためには、モバイル型応急住宅の「社会的備蓄」が不可欠となります。社会的備蓄とは、モバイル建築を平時に多様な用途で使用収益しつつ、災害時に解体せずに被災地に迅速に移設して応急住宅として利用する官民協働の取り組みです。

 特に、南海トラフ地震が想定されている地域では、みなし仮設住宅として利用できる賃貸住宅の空き室が少なく、仮設住宅の建設用地の確保も困難なことから、広域疎開(長期にわたる広域避難生活)や仮設住宅をスキップし災害公営住宅(本設)を早期に供給することが求められます。社会的備蓄として、あらかじめ疎開先にモバイル建築を用いた住機能を持つコミュニティ施設や宿泊研修施設等を整備し災害時に被災者を受け入れ、宅地造成完成後速やかに被災地に本設の災害公営住宅やグループホームとして移築することや、社会的備蓄で不足する分はモバイル建築を全国で分散して新造し、災害公営住宅(本設)を早期に供給することが求められます。

 また、モバイル建築はコロナ禍における感染症対策施設やwithコロナのワークスタイルやライフスタイルを支えるテレワーク施設、少子高齢化社会におけるコンパクトシティーの推進や地方創生を支えるコミュニティ施設、分散避難を支える福祉避難所などの利用ニーズが高まっています。さらに、モバイル建築には、低炭素社会の実現と災害時のライフラインの途絶に備え、モバイルオフグリッドが求められます。

 こうした背景を踏まえ、国難級の巨大災害に備えるため、応急住宅及び本設の災害公営住宅に利用可能なモバイル建築の研究開発と官民協働による社会的備蓄の推進普及、災害時のあっせん・調整・供給を担う非営利の中核機関として2021年5月6日に「一般社団法人日本モバイル建築協会」(非営利徹底型。早期に公益認定を目指す。)を設立いたしました。

 当社団の目的にご賛同いただける方々の参画を広く呼びかけます。

※1:モバイル建築とは

  • モバイル建築とは、完成した建築物を解体せずに容易に基礎から分離し、ユニット単位でクレーン等を用いて吊り下げ、トラック等に積載し、目的の場所に輸送し、迅速に移築することを繰り返し行うことができる構造を有する建築物の総称です。
  • 建築ユニットが標準化されているため複数のユニットを連結・多層化することで様々な間取りや規模、用途、階数の建築物が構成できます。
  • 住宅とで利用する場合は、一般住宅と同等以上の安全性、耐久性、断熱性、遮音性、環境性能を有します。
  • 建設後も建物を解体せずにユニット単位で簡単に分離しトラックや船舶で輸送し何度でも再利用が可能なため環境負荷を軽減し、かつ、ライフサイクルコストを考慮すると高い経済性を有する建築物であります。

※2:社会的備蓄とは

  • 社会的備蓄とは、行政による防災目的の公的備蓄とは異なり、平常時は地方創生に資する社会資源として自治体や民間が使用収益しつつ、災害時に被災地の対策資源として活用する官民協働による新たな備蓄の取り組みです。

※3:モバイルオフグリッドとは

  • モバイルオフグリッドとは、災害時に電力やガス、上下水道等ライフラインが途絶した場合に、ライフラインに依存することなく、生活を継続する仕組みです。
  • 災害時に移動式住宅や車両などに発電機や太陽光発電、蓄電池、V2Hなどにより電力などを供給する技術や、給水や排水を伴わずに移動可能な循環式シャワーやバイオトイレなど、医療的ケア児者のエイドステーション等福祉避難所のモバイル化にも貢献する技術です。

この記事を書いた人

一般社団法人日本モバイル建築協会