2021年7月8日に実施した日本モバイル建築協会設立記念シンポジウムでは、モバイル建築を活用した自治体間連携・官民協働による応急住宅等の社会的備蓄の在り方と、そのための全国ネットワークづくり等について、自治体の首長、政治学、建築や防災の研究者、NPOの実践者など、様々な立場のパネリストとともに活発な議論をおこないました。
モバイル建築という新しいものの「現物」を見せて理解を促進していくことの重要性を確認し、今後の協力について前向きな発言が相次ぎました。その一部をご紹介します。
※本冊子は、ページ末尾のリンクからPDFをダウンロードしていただけます。
大規模災害時の相互支援体制を
茨城県境町町長 橋本正裕さん
災害に強い街づくりを目指してモバイル建築を活用した防災対策を推進。
被災地の様子を見るとみんな「何かしたい」と思うじゃないですか。それが寄付や支援につながっていくと思うんです。大きな災害については1市町村1県でまかなうのではなく、様々な面で協力をしていく。そういう全国の相互支援体制をぜひ、日本モバイル建築協会には作っていただきたいと思っています。
一番重要なことは、災害がおきたときに、そこの人たちが助かるしくみです。仮設ではなく本設に近い住宅が1週間後にはできて、そこで安堵して暮らせる、ゆっくり寝られるような状況を作ってあげられる。それが可能になるのが、この社会的備蓄だと思っています。
広域避難と自治体連携の必要性
徳島大学特命教授 中野晋さん
津波や洪水防災事業継続や地域継続が専門。徳島県防災減災復興アドバイザー。
自分の自治体だけでは社会的備蓄がままならない、あるいは避難という観点からも近隣の自治体とは連携を取らないといけないということが広く認識されれば、社会的備蓄の問題も少しずつ前に進むのではないかと期待しています。
障害のある人の避難をどうするか
NPOレスキューサポート九州理事 木ノ下勝矢さん
被災地支援や事前防災、特別支援学校等の避難訓練や指導に取り組む。大分県防災アドバイザー。
「早めの避難」ってよく言われますが、実際に避難する場所がないんですよね。障害を持ってる人って、走って逃げるというわけにはいかないのです。誰がどういうふうに助けてどこに行くかということをあらかじめ作っていないと、急に言われても避難ができません。だから、どこかに普段から使っている避難場所があればいいなと。モバイル建築があってそこに行くようなしくみになっていると、その問題が解決するような気がします。
本設の住宅にも使える技術で
東京大学准教授 青木謙治さん
専門は木造建築の耐震性・安全性評価。モバイル建築ユニットの性能評価にかかわる。
モバイル建築の建物審査をした時は、地震とか被災者支援とかに役立つなんて全く思ってなかったんです。ただ話を聞いてああ確かにそうだよねと。簡単に移動ができるわけだから、仮設住宅とか本設の住宅に使える良い技術なんだなと。これは確かに今後どんどん発展する可能性があるし、そうさせるべきだなと思っています。
「面白いこと」が防災に役立つ
三重大学准教授 川口淳さん
建築の専門家として阪神淡路大震災の調査に参加。三重県内の自治体と地域防災の実践に取り組む。
防災の仕事を一生懸命やってるんですけれども、これって、本当に災害が来ないと「答」が合ってたかどうかがわからない仕事です。すごくつらい仕事なんですけども、このモバイル建築の話は、その答えが出る前にも面白いことがあって、社会に貢献できます。防災一辺倒の我々からすると面白いし、今後の展開が非常に楽しみです。
防災による産業の活性化効果も
ヤフー株式会社ニュースプロデューサー 宮本聖二さん
長年NHKで災害報道にかかわり、被災者の姿を伝え続けている。
必要な応急仮設住宅等をモバイルで全てまかなうということではなくて、すでにあるものとうまく組み合わせていくと、まずは基礎疾患のある人とか、避難所にいることが難しい障害を持つ子どもがいるご家族にまずは入っていただくなど、柔軟な使い方ができますよね。
災害というのものはすべてをネガティブに捉えがちですが、実は、災害に備えるという形で、産業の活性化にもつながります。
地方と地方の新しい繋がりが
東京大学名誉教授・立教大学客員教授 御厨貴さん
政治学者。東日本大震災の復興構想会議議長代理をつとめる。
災害支援をきっかけに繋がりができて関係人口が増える。そこに宿泊するとか、観光の拠点になったりして、そこの町に行ってみようと。そこからまた次の発展があって、これまではまったく関係なかったところが、災害というものを一つのポイントにして繋がっていく。これが、日本にはなかった地方自治体同士の新しい繋がりになるような気がします。「災いを転じて福となす」という言葉がありますけども、災害を転じて、その町だけではなくて、両方の町の発展に繋がっていくような、そういう意味づけをしていくことが非常に大事じゃないかと思います。
シンポジウムの内容をまとめた冊子は、こちらからダウンロードしていただけます。